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福岡地方裁判所 昭和59年(ワ)1283号 判決

原告

有限会社ナガノ

被告

株式会社天龍創作社

ほか一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

請求の趣旨

一  被告らは各自原告に対し金三九一万七八九七円及びこれに対する昭和五九年二月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訴費用は被告らの負担とする。

2 請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二主張

1  請求の原因

一  事故の発生

原告の代表取締役である永野年郎は次の交通事故により傷害を負つた。

(1) 日時 昭和五八年八月七日午後三時三〇分頃

(2) 場所 福岡市博多区対馬小路一二番一五号先路上

(3) 被告車 普通乗用自動車(福岡三三す二六四七)

運転者 被告田中龍雄

(4) 原告車 普通乗用自動車(福岡五八ま一二〇一)

運転者 永野年郎

(5) 態様 交差点内の衝突事故

(6) 傷病名 頭部打撲症、頸椎捻挫、鼻中隔彎曲症、眼瞼皮下溢血、歯根膜炎

(7) 治療経過

(イ) 外科治療

佐田病院 昭和五八年八月七日から同月一〇日まで四日入院

住吉外科病院 昭和五八年八月一〇日から同年九月一〇日まで三二日間入院

九州大学医学部附属病院 昭和五八年九月七日通院(実日数一日)

碇整形外科 昭和五八年九月九日通院(実日数一日) 昭和五八年九月一〇日から同年一〇月二〇日まで四一日間入院

昭和五八年一〇月二一日から昭昭和五九年二月三日まで通院(実日数九五日)

(ロ) 眼科、耳鼻科、歯科治療

大野眼科医院 昭和五八年八月一一日から昭昭和五九年二月一〇日まで通院(実日数九七日)

松野耳鼻咽喉科医院 昭和五八年八月一七日から同月二七日まで通院(実日数一一日)

歯科水野医院 昭和五八年八月三〇日から同年九月八日まで通院(実日数一〇日)

吉田耳鼻咽喉科病院 昭和五八年一〇月一一日から同年一一月二四日まで通院(実日数一九日)

(8) 後遺症

両眼の眼瞼結膜充血、違和感、眼球疲労及び三歯の歯科補綴(一四級)

二  責任原因

(一) 被告会社は、被告車の運行供用者であるから、自賠法三条に基づき本件事故に因り原告及び永野年郎に生じた損害を賠償する義務を負担する。

(二) 被告田中は、前方注意の過失に因り本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき本件事故に因り原告及び永野年郎に生じた損害を賠償する義務を負担する。

三  損害

(一) 永野年郎の損害 合計二一八万一二五五円

(1) 治療費 二五五三円

九州大学医学部付属病院分

(2) 診断書代(六通) 一万三三〇二円

(3) 入院雑費 七万五〇〇〇円

一日当り一〇〇〇円の七五日分

(4) 通院雑費 一四万〇四〇〇円

一日当り六〇〇円の二三四日分

(5) 傷害による慰謝料 一二〇万円

(6) 後遺症による慰謝料 七五万円

(二) 原告の損害 八一三万六六四二円

原告は宝石等の販売を業とする有限会社であるが、その人的構成は代表者である永野年郎の他には運転手として従業員が一名いるのみで、その営業活動は専ら永野年郎がしているものである。従つて、原告と永野年郎とは経済的同一体の関係にあるものであつて、原告は被告らに対し永野年郎の傷害による逸失利益を請求し得る関係にある。

原告は本件事故前の昭和五八年一月から同年七月末までの間宝石等の販売により総額四四九七万一〇〇〇円の売上げをあげたが、そのうち二五パーセントの一一二四万二七五〇円が純利益であるから、右期間の平均月間純利益は一六〇万六一〇七円である。

原告は、永野年郎の受傷により、営業活動が全く不可能になつたため、原告の売上げは、昭和五八年八月から一〇月までは〇となり、同年一一月から昭和五九年一月までの間も六〇〇万円の売上げ(純利益はその二五パーセントの一五〇万円)しかあげられなかつた。

よつて、原告は被告に対し本件交通事故による逸失利益として、昭和五八年八月から昭和五九年一月末まで六か月間の得べかりし純利益九六三万六六四二円から得た純利益一五〇万円を控除した八一三万六六四二円を請求し得る。

四  損害の填補

永野年郎及び原告らから六四〇万円の支払を受けたので、内金二一八万一二五五円を永野年郎の損害の弁済に充当し、残金四二一万八七四五円を原告の損害の弁済に充当すると、原告の未填補の損害は三九一万七八九七円となる。

五  よつて原告は被告らに対し各自三九一万七八九七円の損害賠償金及びこれに対する本件事故後の昭和五九年二月一日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求の原因の認否

一  請求の原因一の事実中冒頭の事実及び(1)ないし(5)の各事実は認める、(6)ないし(8)の各事実は知らない。

二  同二の各事実は認める。

三(一)  同三(一)の各事実は知らない。

(二)  同三(二)の事実中原告が宝石等の販売業者であることは認め、その余の事実は否認する。

四  同四の事実中六四〇万円の弁済の事実は認め、その余は争う。

第三証拠

記録中の証拠目録の記載を引用する。

理由

一  事故の発生

(一)  請求の原因一の事実中冒頭の事実及び(1)ないし(5)の各事実は当事者間に争いがない。

(二)  成立に争いのない乙第一ないし第七号証及び第八号証の一、二によると請求の原因一(6)(7)の各事実が認められる。

(三)  前示乙第八号証の一、二及び昭和五九年(ワ)第一二八三号事件終了前の被告永野年郎本人尋問の結果(以下「永野年郎の供述」という。)によると、原告は三歯に歯科補綴を加える後遺症が残つた。(一四級)事実が認められる。永野年郎は請求の原因一(8)記載のその余の後遺症が残つた旨供述しているが、いまだこれを認めるには足りないし、他に右事実を認めるに足る証拠はない。

二  責任原因

請求の原因二(一)(二)の各事実は当事者間に争いがない。

三  損害

(一)  永野年郎の損害

(1)  治療費 二五五三円

前示乙第四号証によると請求の原因三(一)(1)の事実が認められる。

(2)  診断書代 一万三三〇二円

弁論の全趣旨により成立を認める乙第九号証の一ないし六によると請求の原因三(一)(2)の事実が認められる。

(3)  入院雑費 七万五〇〇〇円

前示入院状況に照らすと一日当り一〇〇〇円の七五日分を少なくとも要したものと推認できる。

(4)  通院雑費 一四万〇四〇〇円

前示通院状況に照らすと一日当り六〇〇円の二三四日分を少なくとも要したものと推認できる。

(5)  慰謝料 一九五万円

前示永野年郎の傷害の部位・程度、治療経過、後遺症の部位・程度、事故の態様その他本件口答弁論に顕われた諸般の事情を総合すると本件事故に因る同人の慰謝料としては一九五万円が相当である。

(6)  よつて本件事故に因る永野年郎の損害は合計二一八万一二五五円となる。

(二)  原告の損害

(1)  成立に争いのない甲第一号証、永野年郎の供述及び弁論の全趣旨によると、永野年郎は個人で繊維製品の販売業をしていたが、昭和五四年六月一六日繊維製品の販売、貴金属、宝石類の卸、小売等を営業目的とする原告会社を設立したこと、同会社の役員は代表取締役の永野年郎、取締役の永野國治及び取締役の岩田道春から構成されているが、永野國治は永野年郎の実弟であり同人の指示を得て営業に従事し、岩田道春は運転手としての職務に従事していたこと、同会社は本件事故に因る永野年郎の受傷後永野國治が営業を継続していたこと、以上の事実が認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。

右事実によると、原告会社は永野年郎のいわゆる個人会社であり、永野年郎に原告会社の機関としての代替性がなく、永野年郎と原告会社とが経済的に一体をなすものと判断できるから、原告会社は永野年郎の負傷のため利益を逸失したことに因る損害の賠償を被告らに請求することができる関係にある。

(2)  原告は永野年郎の負傷による右逸失利益の算出根拠として、同会社には昭和五八年一月から同年七月までの間四四九七万一〇〇〇円の宝石等の売上げがあつたと主張し、乙第一〇ないし第一七号証を提出しているが、乙第一〇号証の原資料である乙第一七号証には販売店として原告会社以外のものや販売年月日の不明のものが含まれている等の難点が多く全体として右逸失利益の算出根拠とするには不充分であり、その余の右乙号証も成立に争いのない甲第三号証の一、二及び第四号証により認められる永野年郎の所得税の申告実績に照らしてにわかに右逸失利益の算出根拠とするには不充分であるといえる。

(3)  結局、右逸失利益の算出根拠である原告会社における永野年郎(昭和一一年一一月一三日生)の収益としては、多く見るとしても、賃金センサス昭和五八年第一巻第一表男子労働者大卒四五歳から四九歳までの平均年収七四一万五三〇〇円(月額平均六一万七九四一円)を超えることはないと認めるのが相当である。

そして永野年郎の本件事故による前示負傷の部位、程度、治療経過等に照らすと同人は長く見ても昭和五八年八月七日の本件事故の日から昭和五九年二月七日までの六カ月間就労できなかつたものと認めるのが相当である。従つて、右逸失利益の損害額は三七〇万七六四六円を超えることはないと認められる。

四  損害の填補

永野年郎及び原告が被告らから六四〇万円の損害の填補を受けたことは当事者間に争いがなく、内金二一八万一二五五円を永野年郎の損害の填補に、残余の四二一万八七四五円を原告の損害の填補に各充当したことは原告の自ら陳述するところである。

五  結び

してみると原告の損害は既に填補済であつて、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮良允通)

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